2018/09/29

三武潤さん|全日本実業団陸上2018

ポスト川元は誰か…私が真っ先に名前が出てくるのは三武選手です。
中央:三武潤選手
日大卒だからと、贔屓目に見ているわけではありません。
とても柔らかいスプリントをする選手で、コーナーの走りが上手い。
一方で力強さに少し欠けるようにも思える。
未完成の部分が多いように見受けられて、だからこそまだまだ速くなるだろうと期待して観ています。

先週の全日本実業団、アップの走りを見るとかなり調子が良さそうでした。
「これは獲れるかもしれない!」と思ったのですが、スタート直後に他の選手の走りを見て「これは楽じゃない…」と思い直すことに。
調子が良さそうなのは三武選手だけではなく、他にも数名いるようでした。
結果は福井県スポーツ協会の村島選手が1分47秒97で1位。
2着に市野選手、3着に新安選手がともに1分48秒台で入って三武選手は1分49秒14で4着。
49秒台なので悪くないのですが、前の3人が素晴らしかった。
間違いなく、日本の中距離会は全体的にレベルが上がっています。
ただ、それでも優勝タイムはギリギリ47秒台。
村島選手は5月に1分47秒01を出しているので46秒にあと一歩というところです。
コンスタントに46秒台を出せるような選手が数名出てくること。
そのレベルのレースを国内で何度も経験出来ること。
それが世界と戦う上でも必要になってくるでしょう。
そして三武選手にもその可能性は十分あると思うのです。

東京で五輪が開催されることもあってか、社会人になっても走り続ける中距離選手が増えてきました。
(裏を返せば、東京五輪がなければ、これだけ多くの選手が競技を続けられていたかは疑問です)
彼らに共通して言えることは「社会人で結果を残さなければならない」こと。
東京五輪の後、社会人になって走り続けようと思う選手が増えるのか減るのか…
アスリートとして中距離選手を採用する企業が増えるのか減るのか…
それは彼らの出す結果にかかっている部分も大きい。
彼らにとって、走り続けられる環境はとても有難いことでしょう。
同時にその有難さは、大きなプレッシャーでもある。
だからこそ、三武選手に限らず、社会人で走り続けているロングスプリンターを応援し続けたいと思います。

2018/09/24

新宮美歩さん|全日本実業団陸上2018

全日本実業団陸上、東邦銀行の新宮さんは400m、800m、4×100mRの3種目に出場。
初日の800mでは序盤から前に出る積極的な走りで3位(2分8秒56)。
400mは57秒31で予選敗退でしたが、走れているなという印象を受けました。
後述しますが、シニア期に「走れている」というのはとてつもなく凄いことです。
そしてこの「走れている」ということが、新宮さんの走りはまだまだ進化するのだろうと予感させてくれます。

シニア期の成長条件とは



1991年生まれの新宮さん。
高校生でベルリン世界選手権のマイルリレー代表となり、学生時代にはアジア選手権400mで7位、マイルリレーではアンカーを走り金メダル。
その翌年、2012年に出した400m53秒66、800m2分5秒47が自己ベスト。
インターハイやインカレでも活躍した輝かしい経歴を持つ選手です。
どの種目でもそうですが、トップアスリートがベストタイムを毎年更新し続けるのははっきり言って困難です。
シニア期の選手は特に難しい。
けれどもシニア期にピークを再び持ってくることは不可能ではない。
年齢的には25歳から30歳。
この時期に可能だろうと私は考えています。

一般的には体力、記憶力、判断力のピークは20代前半から中盤とされているので、25歳以降は衰退するのではないかと考えられがちです。
しかし、20代前半からトップアスリートとして活躍してきた選手が、30前後で再び自己ベストを更新する姿はこれまでにもありました。
トレーニングを工夫することで磨きがかかる部分、年齢を重ねることで成長する部分は間違いなくあります。

その条件は第一に「走れている」こと。
20代前半までに培った体力面を維持し続けていること。
最前線で活躍してきた選手は少なからずどこかに故障を抱えているものなので、維持するだけでも大変なことです。
しかもこれから先、トレーニングの工夫ができる想像力、創造力、行動力を持ち合わせていることが条件になります。
当然のように、動きは20歳前後のころより洗練されていなければなりません。
効率の良い走りを追い求めつつ、自分のどこに可能性があるかを見つけ、その方法を見出し、実践する能力が必要です。

簡単ではないでしょうが、今、女子中距離会で私がその可能性を感じているのは、奥アンツーカの大森さんと、東邦銀行の新宮さんです。
走り方のタイプは全く異なる2人ですが、両名ともこの1,2年で伸びる…そんな気がしています。

2018/09/23

大森郁香さん|全日本実業団陸上2018

奥アンツーカの大森さん、今年の全日本実業団陸上は800m、1500m、そして400mの3種目に出場。
今年は故障で思うように走れない時期が続いていたので、事実上これが復帰レースになるだろうと注目していました。
最初の種目は800m。
先頭の3人が400~500mでスピードを上げます。
大森さんはそこについていけずに2分10秒32で5着。
アップを見る限り動きはかなり良かったので、レース勘が戻っていないように感じました。
スピードの変化には対応できないというより、身体が反応しなかったのではないでしょうか。

この翌日、1500mを走ります。
専門種目じゃないし連戦だし無理しない程度に走ってくれれば、と見ていると…
なかなかいいタイムで走り続けて4分28秒81で10位。

そして最終日は400mに出場。
予選1組を58秒58。
3日間で3戦目。
3種目全部出るとは考えていなかったので、よく走ったなというのが正直な感想です。
これだけ走れる姿を見て安心もしました。
復活の手応えを十分感じさせてくれる大会でした。
それでも、800mを走り終え優勝した山田さんを讃えた後、一人両手で顔を覆う場面がありました。
もう少しいい形で復帰を飾りたかった、というのが本音なのでしょう。
焦らず少しづつ戻して、過去の自分を超えてほしいと思います。

2018/09/15

高石涼香さん|日本インカレ女子800m

少し前のレースですが、今年の日本インカレ女子800mの混戦は見ごたえがありました。
優勝したのは塩見さんで、タイムは2分5秒88。
2位に広田さん、3位に川田さんが入り、4位は池崎さん。
塩見さん、川田さん、広田さん、池崎さんの4人の実力は突出していたので、順当にいけばこの4名が1位~4位であることは誰でも予想出来たことでしょう。
決勝に残るのはあと4名。
この争いが予選から熾烈でした。

予選5組を走った東大の高石さんも例外ではなく、序盤からの激しいポジション争いにペースを乱された感があります。

1周目の位置取りがうまくいかないと、スパートをしかけるタイミングを見失い、走り終えた後にはすべてが空回りしてしまったように感じてしまう。
4年生にとっては最後の日本インカレ。
最後だから全てを出し切りたいと誰もが願うのですが、特に中距離種目はそれが容易には出来ない。
ゴールした時、先頭との差はタイム以上のものがあるように見えてしまう。
800mの難しさと残酷さを垣間見た日本インカレでした。

東大の高石さんは、まだあと何レースか走るようです。
納得のいくスプリントで現役生活を締めくくることが出来るように祈っています。

2018/09/06

精進百撰|水上勉

以前の記事では、ジュレクの「EAT & RUN」を取り上げました。
スコット・ジュレクはウルトラマラソンの第一人者であると同時に、完全菜食主義者(ヴィーガン)でもあります。
ジュレクに影響され、ヴィーガン食を取り入れてみようとすると初めは難しいように感じたものです。
しかし日本には完全なるヴィーガン食が古来より存在していることを思い出しました。
精進料理です。
そして私は、本物の精進料理の味を知っている…。

9歳で京都の相国寺の小僧となり、11歳で等持院に移り、19歳まで小僧をつとめた作家の水上勉さんは、禅寺で教わった精進料理の数々を、1冊の本にしておられます。
それが「精進百撰」です。
晩年の水上さんは長野県北御牧村に住んでおられて、畑を耕し収穫をし、山へ入って土を掘り、調理をし食べて書く…そのような生活を送っておられました。
北御牧のお宅に伺った際、山芋を振舞ってくださって、皮をむいて輪切りにして両面を焼くだけで驚くほど美味しかった。
「同じ山芋でも畑で収穫されたものと野生のものとでは全く味が違う。もちろん、野生でも育った場所、畑でも土によって違う。上質な山芋は、ただ焼くだけで美味い。手をかければかけるほど、山芋本来の味は薄らいでゆく」と教えてくださった水上さん。
書くことも走ることもまた生き方に通じるものであるならば、水上さんの食生活はまさに質実そのものです。
この質実という点において、私には水上さんとジュレクとが重なって見えるのです。

本書の本編のタイトルを水上さんは「蔬食三昧」としておられます。
「蔬食」とは菜食の意ですから、まさにヴィーガンそのものです。
当初私は、精進料理やヴィーガン食に対して質素で健康的なイメージを抱いていたのですが、そうでないものも結構あります。
例えば植物油で調理したフライドポテトも立派なヴィーガン食で、ヴィーガンのファーストフード店もあるくらいです。
水上さんが紹介している精進料理にも「霰豆腐」というものがあって、これは豆腐をサイコロ状に切って胡麻油で揚げるというもの。
どちらも食べ過ぎれば不健康極まりない一品です。
結局のところ、大事なのは「必要な量」を見極めること。
油で揚げた味を愉しみたい時も、どの加減で止めておけるか、食べ方の極意とは、恐らくそこにあるのではないかと思うのです。
精進料理はまさに禅であるのですから、調理も食することも、その極意を悟るための修行なのかも知れません。
食べることも、走ることも質実でありたいものです。

さて、以下は余談なのですが…
霰豆腐は沖縄の島豆腐で作ると崩れが少なくて作りやすいようです。
小さめのフライパンにサイコロ状に切った島豆腐を胡麻油で揚げるように焼いて、軽く塩を振れば完成です。
島豆腐が手に入らなくても、白山麓のかた(堅)豆腐でも同じように調理できるはずです。
私も最近知ったのですが、沖縄の島豆腐と、福井・富山・石川の白山麓のかた豆腐が、日本の豆腐の原型だと考えられているそうです。
木綿豆腐や絹ごしなどは、地域に合わせて製法と味を変えていったものなのでしょう。
亜熱帯の沖縄と冬は雪深い白山…気候の全く異なる両地域で、変わらず昔ながらの豆腐を製造していることが何だか不思議だと感じる今日この頃です。

2018/09/03

EAT & RUN|スコット・ジュレク

ウルトラマラソン、そしてトレイルランニングの第一人者、スコット・ジュレクが自身のランニング観と食生活について書いた本「EAT & RUN」は、私を夢中にさせてくれた1冊です。

私は出版社勤務の後、有機農産物を取り扱う「大地」という企業で働いていたこともあり、「食」には多少の関心を持っていました。
しかし当時の私は既に引退していてジョガーですらありませんでしたから、自然や環境と「食」を結びつけることは出来ても、そこに「走」が結びつくことはありませんでした。
その必要性がない生活を送っていたのです。
その後私は身体を壊し、さらに10年以上全く運動をしない生活を続けます。
ジュレクの「EAT & RUN」に出会ったのは、再び走り始めたころです。
引退から19年が経過していました。

ジュレクは完全菜食主義者(ヴィーガン)として知られていますが、初めからヴィーガンであったわけではありません。
恐らくジュレクにとってヴィーガンは、食べ方、走り方を問い続けることで辿り着いた解答なのでしょう。
「EAT & RUN」を読み進めると、「何をどう食べて走るか」ということをここまで深く考えている人がいることに驚かされます。

ジュレクの自然体を貫く食生活とランニング観に影響を受けた私は、完全なヴィーガンにはなりませんでしたが、極力肉を食べないようにしています。
普段は植物性たんぱく質を中心にし、青魚をたまに食べます。
そして、ひどい筋肉痛になった時などに牛肉やラム肉、乳製品などを食べます。
そうすると普段あまり肉類を食べていないからか、回復が早いように感じています。
「汝の食事を薬とし、汝の薬は食事とせよ」
と言ったのはヒポクラテスだそうですが、そのように食べ、そして走りたいと思うようにもなりました。
もちろん友人との外食や肉類の食材を頂いた時は別で、ただひたすら食事を愉しみます。
走ることも食べることも、楽しくあることが理想であるのは言うまでもありません。
自分に何が必要で必要でないか…食を工夫することすら楽しめる生き方を目指したいものです。
そして「EAT & RUN」にはジュレクが実際に食しているヴィーガン食が紹介され、そのレシピも掲載されていますから、ベジタリアンでなくともランナーには大いに参考になると思います。

また随所にコラムのページがあって、そこにはジュレクのランニングに対する考え方、走り方の基礎が簡潔に書かれています。
例えば走る姿勢については、
前屈みの姿勢で腰は立てる。頭からつま先まで棒が通っていると想像しよう。その棒が地面から心持ち前傾するように保ち、骨盤はまっすぐに。全身がうまく使えると、重力を利用した走りができる。ランニングがコントロールの効いた落下だということを忘れてはいけない。
とあります。
一本の棒を地面に落とせば棒は弾みます。
よく言われる「地面からの反発」というものです。
体を一本の棒のようにすることができれば、落下した際の反発力は棒の先、つまり頭まで響きます。
この状態が、重力を最大限に活用したランニングです。
100㎞をより楽に走るには、なるべく体力を使わず重力の助けを最大限に得たいものです。
そして100mをより速く走るには、重力を緻密にコントロールする技術が必要となってきます。
「ランニングとはコントロールの効いた落下である」…最も的を射たランニングの定義ではないかと思います。

この本に共感できる人は、記録や勝ち負けだけではなく、走ることを生活の一部にすることが出来る人だと私は思います。
ベテランランナーであっても、自分のランニング観を再確認することが出来ることでしょう。
お勧めの一冊です。