2018/06/26

日本選手権女子1500m|岩川侑樹さん

今治造船の岩川侑樹さんが8位入賞。
自己ベストに近い4分20秒60で走っています。
岩川さんの自己ベスト4分19秒42は今大会の資格記録ですので、まさに社会人になってから伸びた中距離選手だと言えます。

これまで、日本選手権の1500mにエントリーしてくるのは、男女とも駅伝を中心に活躍している選手がほとんどでした。
それがこの数年で変わってきているように感じています。
残念ながら今大会は予選落ちでしたが、田中希実さん、後藤夢さんなど、高校卒業後に駅伝をメインとしない若い選手が出てきたこと。
そして卜部さん、須永さんのような「800mも走る社会人」の走りも目立つようになってきました。
岩川さんもその一人です。
腰高で膝下が前にスッと出るしなやかな足運びをしつつピッチを刻む…まさに1500mを得意とする走り方です。

今、日本の中距離界、特に1500mに必要なのは、スプリントとスタミナを分けて考えるのではなく、一つにしてしまうことだと思います。
それはよく言われているスピード持久力のことではありません。
スピード持久力(最大酸素摂取量)は確かに重要な要素ですが、それだけではなく、「スプリント持久力」という概念を持つこと。
そしてそれは社会人になってからも充分伸ばすことが可能だと、岩川さんの走りが体現してくれています。
今を走る選手たちの姿の中に、1500mの新しい光景が隠れている。
そう思えてなりません。

2018/06/24

日本選手権6連覇、川元奨

川元選手の6連覇の走り…圧巻でした。
2位以下を寄せ付けないスパートには流石の一言しか思い浮かびません。
今シーズンは故障もあって本調子ではないと聞いていましたが、大きなレースでの勝負強さは相変わらずです。

800mで日本選手権6連覇をした人って過去にいるのでしょうか?
と思ってちょっと見たら、日体大の石井隆士さんの5連覇が過去最高のようなので、どうやら超えたようです。
1分45秒台の日本記録保持者で日本選手権6連覇。
現在、国内では川元選手の前を走る人はいないでしょう。
そして今、川元選手には東京五輪が見えていることでしょう。
世界で勝負をするには、コンスタントに45秒台を出せるようにならなければならない。
恐らくそれが最低条件です。
これまでもそうでしたが、ここから先も、誰も到達したことのない世界です。
川元選手と松井コーチの2人なら、切り拓いてくれると信じています。

當間汐織さん8位入賞|日本選手権女子やり投げ

4年前、2014年の6月、台北市で開催されていたアジアジュニア選手権。
女子やり投げの金メダリストを写した1枚の写真に魅せられたことを今でもよく覚えています。
当時、久米島高校を卒業し九州共立大学へ進学したばかりの當間汐織さんです。
55m75の投てきで優勝。
この年には日本選手権にも出場し4位入賞を果たしました。

あれから4年。
九州共立大を卒業し、福井県スポーツ協会の所属となったばかりの當間さんが日本選手権に帰ってきました。
51m61で8位入賞。
8位入賞はしたものの、満足できる記録ではなかったかも知れません。
それでも、8位入賞の報せは、ここから新しい競技人生が始まるのだろうという期待を持たせてくれるには充分です。
そしてこれは4年前にも感じたことなのですが、地元沖縄の人が當間汐織の名をもっと知ることになる日が必ず来る…
今も変わらず、その予感を抱き続けています。

【少し余談】
投てき種目は、なかなか練習を行える環境がないというのが現状です。
昔からどの競技場に行っても、走っている人はいても投げている人はいない…
フィールドで走っている人もいるから、投てきすることすらできない。
本当は、たくさんの市民ランナーがトラックで走っているように、フィールドで投てきを行っている人がいる様子が理想なのだろうと、いつも思っていました。
特にそれほど重くないやり投げは、高齢になってからも可能な競技だろうと思います。
競技に参加すれば、無理のないペースで筋力トレーニングを行う励みにもなるし、やり投げなら練習で走ることも出来る。
市民ランナーのように市民スロワーがいてもいいのにな、と思う今日この頃です。

大森郁香さん|日本選手権女子800m

今年から奥アンツーカで走っている大森さん。
故障に悩まされていましたが、日本選手権の舞台に戻ってきました。
予選3組を2分16秒01で5着。
予選敗退ではありますが、痛みもなく走り切れたとのことですから、夏場で走り込んで今シーズンの後半戦でどこまで上げてこれるか楽しみです。

大森さんがこれほど長く戦線離脱するのは初めてのこと。
所属も変わり、新しい環境を手に入れたこの時期に、少し立ち止まる時間が出来たことはかえって良かったようにも思えます。
必ず糧になることでしょう。

2018/06/09

新谷仁美さんの復帰レース

本日、6月9日に行われた日体大長距離競技会女子3000mで新谷仁美さんが現役復帰。
およそ5年ぶりのレースですが、9分20秒の好タイム。
それでも本人は「かなり中途半端な記録」とのコメント。
自分に厳しい姿勢と、復帰レースでいきなり先頭を走るあたりが以前と同じスタイルで、「新谷が帰ってきた」と強く実感させてくれました。

2013年世界陸上モスクワ大会女子10000mで30分56秒70で5位入賞をした走りを記憶している人も多いでしょうから、現役復帰には大きな期待が寄せられていると思います。
新谷さんがどんなタイムで走るかは楽しみではありますが、それよりも私が楽しみにしているのは、これからの新谷さんの走り方です。
新谷さんが所属するのは800mで活躍した横田真人さんがヘッドコーチを務めるNIKE TOKYO TCです。
これまでの実業団所属とは明らかに競技との関わり方が変わってくるはずです。
実績もあり、しかも自分のスタイルを持っている新谷さんが、どういう走り方(生き方)を見せてくれるのかとても興味深いものがあります。
もしかしたら、これまでにない新しいスタイルを見せてくれるのではないか?
そしてそれは今後の選手の走り方の道標になるのではないか…
新谷さんだけに、そんな期待を持たせてくれます。

ところで、新谷さんはかなりのピッチ走法です。
脚力は、世界トップレベルの中ではそれほどではないと思います。
それでもこれだけのスピードを維持できる。
つま先が前に出で綺麗なミッドフットで接地する…シンプルな事ですが理想的なピッチ走法だと思います。
理想的なピッチ走法だと思った選手は過去3人います。
高橋尚子さん、新谷仁美さん、西澤果穂さんです。
高橋さんはご自分で「腕振りが良くない」と言っていましたが、見方を変えればリズムに徹した腕振りで何より足運びが素晴らしかった。
新谷さんの腕振りは高橋さんと違って、位置が低く振りが大きい。
ラストのスプリントにも対応出来る走り方です。
少し前傾姿勢でピッチ走法で走っている人なら真似してみても良いのではないでしょうか。

2018/06/02

月経との関わり方

女性アスリート、女性アスリートのコーチなら、誰でも一度は悩むことになるのが「月経」についてだろうと思います。
特に男性コーチの場合は、自身で体験出来ないことなので困惑することも多々あるでしょう。
  • 月経不順はどう身体に良くないのか?
  • 生理期間中のトレーニングはどうするか?
  • 試合とぶつかってしまったらどうしよう?
など、様々な壁にぶち当たります。
私もそうでした。

1、月経は定期的にあることが理想

まず、健康への影響から振り返ってみます。
私が女子選手の練習を見始めたのは90年代のことです。
日本ではまだ「無月経による健康への影響」が周知されていませんでした。
「激しい運動をしていれば無月経になるのは当然」と考えている指導者が数多くいたのです。
無月経が続くことは更年期障害と似た状態になるということですから、精神面への影響もありますし、骨粗しょう症にもなりやすい。
アスリートであれば疲労骨折や、ストレスからくる摂食障害などの原因になりかねません。
こうしたことを知らないまま競技を続ける選手が多かった時代でした。
私自身も「ずっと生理が来ないのは身体に良くない」程度の認識でした。
アスリートなら多少の月経不順は仕方ないだろう…とも思っていました。
今にして思えば、選手の小さなケガや、メンタル面での問題は月経不順が原因だったのかもしれません。
どれほどのトレーニングをしている選手であっても月経は定期的にあるべきだ。
それが今の私の考えです。

問題なのは、無月経が身体に様々な影響を及ぼすことを知りながら、それでも「アスリートなのだから仕方ない」と考えているコーチが今もなおいることです。
(女子選手の月経周期について全く無頓着なコーチも見かけますが、これはもう論外です)
無月経の原因として広く知られているのは体脂肪率の低下によるものです。
確かに、本格的なトレーニングを継続をすれば体脂肪は減ります。
そして無月経になったとしても、トレーニングを休止し脂肪が増えてくると自然と月経は戻ってきます。
ではトレーニングをしながら正常な月経周期を維持することは出来ないのでしょうか?
この疑問への解答をマラソン世界記録保持者のポーラ・ラドクリフが著書「HOW TO RUN」で述べています。
生理が始まるには体脂肪が15~17%は必要だと主張する栄養士もいますが、私は体脂肪12~13%程度できちんと生理があります。その理由を解く新しい考えかたは、重要なのは体脂肪の絶対量ではなく、カロリーバランスだとするものです。
激しい運動をしていながら必要最低限のカロリーしか摂取していないと、破壊された骨や筋肉の修復が間に合わなくなります。
その状態が長く続くとホルモンバランスにも影響するというのです。
そしてラドクリフ自身、人生で生理が止まったのは2度だけ。
一人暮らしを始めた学生の頃と北京五輪の後の2度で、どちらも過度なトレーニングではなく、ストレスが原因だったと振り返っています。
私が関わってきた選手の中にも、元々細身でしたが生理は定期的に来ている人がいました。
重要なことは、ラドクリフが言うように、アスリートとして必要な栄養素とカロリーを摂取できているかということにあるようです。
特に長距離選手は「痩せている方が有利」と考えがちで、食事の量そのものを減らす傾向がありますが、体脂肪もアスリートに必要な栄養素です。
たくさん走るならたくさん食べなければならない…それが鉄則ではないでしょうか。
人によりベストな数値は変わるでしょうが、通常は最低12%を目安に維持しておくことが望ましいと言えそうです。

では生理の間、またその前後のトレーニングや試合はどうしたら良いのでしょう?
以下、考察してみます。

2、生理中のトレーニングは?

生理になっている間、女性の身体は出産時と同じような状態になります。
骨盤が広くなり関節が柔らかくなるのです。
これがパフォーマンスに影響する人がいます。
特に陸上や水泳などで0.01秒を競うレベルにいる人は、少しの違いでも大きく感じるはずです。
「動きがおかしい」とマイナスに感じる人もいれば、「いつもより動きやすい」と感じることもあるようです。
先ほど紹介したラドクリフは恐らく後者のタイプです。
彼女がシカゴマラソンで世界記録を出したのは生理が始まった日だったそうです。

生理中に柔らかくなった関節は、生理が終われば元に戻ります。
これは私の推測にすぎないのですが、緩くなった関節が元に戻ることが、生理後のパフォーマンスに影響を及ぼすケースがあるのではないかと思うのです。
生理前と生理中の栄養管理や睡眠が充分であっても、生理後にだるさが残る人がいます。
これだけが原因とは思いませんが、だるさの理由のひとつなのかも知れない。
だとすれば、生理中と生理後のトレーニングは「動きを感知しにくいもの」が理想なのかもしれないと考えるようになりました。
競技の動きをトレーニングに入れてしまうと、選手は普段との違いに敏感になります。
ウェイトトレーニングや体幹トレーニング、水泳選手ならランニングなど、競技の動きとかけ離れた動作をメインにトレーニングを行うことが望ましいのではないでしょうか。

生理痛がひどい場合はトレーニングを休むのが理想です。
大会であっても、理想は棄権することです。
運が悪かったと諦められるくらいが運動としては健康的で良いと思うのですが、目標とする場所があって、日々トレーニングを頑張っている人ならそうもいきません。
目標としてきた大舞台で「棄権」を選択することは難しいでしょう。

3、試合と重なったらどうするか?

生理中と試合が重なってしまったら?
生理とその前後で体調が極端に悪くなる人にとってはどうしようもない事態かも知れません。
日常的に出来る対策として、腹部のむくみなど月経前症候群がある人は、水分補給をこまめに行い、塩分や砂糖、香辛料の多い食事を避けることが挙げられます。
生理中は、体内に水分を蓄えようとすることで身体がむくみます。
ここで水分摂取を控えるのではなく、摂取量を増やすことで代謝を上げるようにします。
そして生理痛に悩まされている人はビタミンB6の摂取量を増やすと良いでしょう。

とはいえ、これくらいのことではどうにもならないくらいひどいケースが実際は多いと思います。
先に述べたような関節が柔らかくなることで動きがだるいと感じる人の場合もそうですが、「生理になったら終わり」としか思えない人はどうするべきなのでしょうか?

ひとつの対策として、私なら低用量ピルをお勧めします。
海外では15歳くらいから使用している選手がたくさんいます。
先進国の中で、あまり広まっていないのは日本くらいかもしれません。
低用量ピルを使うには、婦人科を受診し処方してもらわなければなりません。
生理の量を減らしたり、時期をずらすことも可能になりますが、服用以前に定期的に生理が来ていることが前提となります。
「ピル」と聞くとマイナスのイメージを抱く人も多いでしょうが、低用量ピルを使うにも定期的に月経がなければならない。
低用量ピルを使用するリスクと、無月経のリスクを比べたら、私は迷わず低用量ピルをお勧めします。
もちろん、低用量ピルには副作用もあります。
むくんだり体重が増えることもありますので、大きな大会の直前に初めて使うのは避けるべきです。
目標とする大会を仮想して、予行練習をすることをお勧めします。

また、低用量ピルをある一定期間日常的に使用することで、ほとんど生理を気にすることなくトレーニングを継続することが出来るケースもあります。
さらに使用を停止した後も生理の量や痛みが少なくなった例もあって、これは実際に使用していた市川華菜さんの記事「女子アスリートに知っておいてほしいこと 第2回」に詳しく書かれていますので参考にされると良いかと思います。

4、まとめ
  • 生理は定期的に来ることが大前提
  • 体脂肪率を気にするより、運動量に見合った栄養素、カロリー摂取を心がける
  • 生理中、動きに違和感があるなら競技とは異なる動作のトレーニングを中心に行う
  • 生理痛がひどい時は休むことが理想
  • それでも試合に出たいなら低用量ピルの使用を考える
最後に、本記事で紹介したラドクリフの「HOW TO RUN」は、すべてのランナーにお勧め出来る1冊です。
走り方はもちろん、シューズの選び方、マラソン初級者から上級者までの具体的なメニュー、筋力トレーニングやストレッチの方法、食事と水分補給、さらには乳酸の使い方など、ほとんどすべてのことが詳しく、しかも簡潔に書かれています。
月経だけでなく、出産後の走り方まで教えてくれているので、特に女性ランナーにお勧めします。