2018/12/20

摂食障害になる前に…本当になくすべきもの

元マラソン選手の原裕美子さんの事件の背景に摂食障害があったことは記憶に新しいところです。
まだ放送されてはいませんが、まさにこの記事を書いている今日の夜、NHKのクローズアップ現代+でスポーツ界のパワハラについて取り上げられます。
少しずつではありますが、摂食障害について、そして日本陸上長距離界における行き過ぎた選手の健康管理について知られるようになってきたと感じています。

先日の毎日新聞の記事には、「心むしばむ摂食障害」というものがありました。
画像はその記事の冒頭部分です。
摂食障害に苦しみ、引退をした元選手は「あのまま続けていたら死んでいたかもしれない」と語ります。
この元選手の記事や原さんに関する報道を軽く受け止めてしまうと「摂食障害が原因」とだけ捉えられてしまうかもしれません。
摂食障害に対する理解が深まるのはよい傾向だと思いますが、問題なのはその摂食障害になってしまった原因「行き過ぎた健康管理」そしてパワハラです。
摂食障害は、追い詰められた選手の症状のひとつに過ぎません。
限界を超えて働かされる過労が原因で自殺する社会人がいるように、陸上選手だって自殺を考えてしまうこともある。
そのくらいの危機感を抱き、原因となる部分を変えていかなければならないのです。

私の親しい人の中にも、「このままでは自殺してしまうかもしれない」と感じるほど摂食障害に苦しんでいた元選手がいます。
その最大の原因は、厳しい体重管理、人格を否定するほどの罵声など、コーチからのパワーハラスメントであることは明らかでした。
「摂食障害は周囲の人が気づいてあげることが大事」とよく言われますが、実業団の陸上部の場合は寮で生活をすることが多く、最も近くにいるのがその要因を作り出しているコーチなので気づくことなんてありません。
体重が少しでもオーバーしていたり、普段の練習で設定タイムがクリアできないでいると、
「精神力が弱い」
「実業団の選手としての自覚がない」
というような理由を並べられてしまいます。
強豪チームであれば、結果を出している選手がいるのも事実なので、「従えないお前が悪い」となってしまう。
恐らくこの考え方が、度を越した選手管理の原因です。

容易なことではありませんが、動かなければ何も変わりません。
毎日新聞の記事の最後で、インタビューに答えた元選手は「若い子に同じ思いをしてほしくない」と語っています。
私も同じ思いです。
自分にも出来ることを模索していこうと思います。
そしてもし、この記事を読んでいる人の中に、今まさに苦しんでいる長距離選手がいるのなら、誰でもいい、少しずつでも相談してくれたらと思います。
愚痴をぶちまけるだけでもかまいません。
それだけでも、だいぶ楽になるかもしれないのですから。

2018/11/29

喜納翼|「翼」という名のアスリート

今年の大分国際車いすマラソンで、女子の優勝者は喜納翼選手でした。
タイムは1時間39分36秒の自己ベストで、これは今季世界ランキング2位だそうです。
また、この優勝で4月に開催される世界選手権の代表にも内定しました。
女子車いす陸上競技では、日本、そしてアジアを代表する選手です。

私が喜納翼と初めて会ったのは、4、5年ほど前のことだったと思います。
車イス陸上の城間圭亮選手とたまに走るようになって暫く経った頃で、競技を始めて間もない翼は、5000mを15分くらいのペースで走っていました。
城間圭亮(左)、喜納翼(中央)と
※撮影:屋良優海子
当時の私は40歳になっていましたが、そのくらいのペースで走ることはそれほど苦ではありませんでした。
ところが、いざ並んで走ってみるとこちらを引き離そうとする意志がはっきりと見える。
初めて一緒に走ったその日、下地コーチに
「ありゃ相当な負けず嫌いだよ。負けず嫌いのオーラが出まくってる。どんどん伸びるんじゃないか?」
と言ったことを覚えています。
とはいえ私には車イス陸上の専門知識はないので、強く速くなるとは確信できても、どこまで伸びるのかはさっぱり分からない。
そうこうしているうちに翼はどんどん速くなって、今ではフルマラソンを1時間39分台で走るようになってしまいました。
あちらは急成長の真っ最中ですが、こちらは40代半ばになり体力は急降下する一方なので、もう数百メートルですらついていくのは無理。
どんな競技でも始めて4,5年であれば、練習を積み重ねられたら誰でもある程度は伸びると思いますが、この成長速度には驚くばかりです。

ここ最近、東京パラリンピックが近づくにつれ、喜納翼への注目と期待が一気に高まりつつあります。
大きな大会で結果を残し急成長を続けていることから、「順調」だと受け止められることが多いようです。
一方で当の本人は、車イス生活をすることになった事故のことを「最大の親不孝をした」と言っていたことがあります。
その後悔と葛藤は、恐らく生涯抱き続けることになるでしょう。
それでも、競技用車イスで走る喜納翼の姿は、それこそ本当に「翼」が生えているかのように見える。
「やがて飛ぶんじゃないか?」と、冗談のように口に出したこともあるくらいに。
誰がつけたのか訊いたことはことはないけれど、喜納翼ほど「翼」という名が似合うアスリートはいないと思います。
その姿は既に、最高の親孝行となっているはずです。

私は障がい者競技を見て、「障がいがあるのにすごいな」と思ったことは一度もありません。
コーチやサポートしている人たちを含めて、アスリートとして惹かれるものがあるかどうか。
障がいのあるなしに関係なくただそれだけです。
喜納翼の走りとその速度を目の当たりにすれば、きっと多くの人が惹きつけられることでしょう。
東京パラリンピックまであと少し。
一人でも多くの方に注目していただけることを願ってやみません。

2018/11/10

高石涼香さんの残したもの

恐らく、東大記録会が最後のレースとなった高石さん。
公式レースではかわさき陸上競技フェスティバルがラストレースとなったのでしょうか。
画像直リンク先は大森郁香さんのツイート
https://goo.gl/okzKNj

この2年、注目して見てきた選手です。
女子800mにおいて、18歳以上から陸上を始めた選手の中では、間違いなく過去最高の記録を出した人だと思います。

初めてその走りを見た時、2分15秒台で走っていました。
大学から陸上を始めて2年も経たないうちに15秒台で走っている…それだけでも驚きでした。
最終的に高石さんのベスト記録は4年生時の関東インカレ、女子800m準決勝で出した2分10秒92。
とてつもない急成長とともに、素晴らしい実績を残しました。

高石さんの走りは、日本インカレなど大きな大会を見るとわかりますが、他のトップ選手よりも明らかに力負けしている部分があります。
筋量が少ないこともあって、少し弱々しく見える。
正直な感想を言えば、持久力や体幹の強さは、2分14秒台で走っている高校生とそれ程変わらないかもしれません。
それでも2分10秒台で走った。
体力と経験不足を補うもの。
それは自ら考え実践する力、「陸上力」だったのではないでしょうか。
高石さんのレースを映像で見るたび、試行錯誤を繰り返してきたことが見て取れます。
以前の記事にも書きましたが、高石さんが記録を伸ばし続けてきた姿は、伸び悩んでいる高校生やその指導者にとって大きな勇気となったことでしょう。

もし可能であるならば、どのようなトレーニングを実践してきたか、陸上以外のことを含めて、感じたこと、何を考えどう学生生活を送ってきたか…
いつの日か公開して欲しいなと、勝手な期待を抱いています。

2018/10/19

田中怜奈さん、女子棒高跳高校新記録

昨年、「棒高跳びの新星たち」という記事で取り上げさせてもらった田中怜奈(観音寺一高)さん。
U20日本選手権で4m11㎝(日本歴代10位)の跳躍でU20日本新記録、高校新記録を樹立しました。
画像直リンク先はhttps://goo.gl/ddXKSh
JAAF公式Twitterアカウント)
高校2年生で4mを跳んだ時にも驚かされましたが、あれから1年ちょっとで4m11㎝。
急成長の真っ最中です。

そして動画を見ると、記録更新後に4m20㎝に挑戦しています。
跳躍種目は上に挑み続ける限り、最後は必ず失敗で終わる種目です。
残酷なようですが「失敗で終わる=課題を見つけられる」ということでもあります。
跳躍種目ほど、失敗を次に活かせる競技はないのではないかと思います。
田中さんの最後の跳躍も何か掴みかけているようでした。
4m20を跳ぶ日も遠くないのではないか…
4m11という大記録を出しばかりだというのに、もうすでにそんな期待が膨らんできます。

2018/10/18

石塚晴子さんのスプリント

先月観戦した全日本実業団陸上。
自分でもとても意外だったのですが、石塚晴子さんの走りを実際に観たのは初めてでした。
インターハイで凄まじい活躍をしていたので、もちろん名前は知っていましたし、大学を辞めてローソンに入ったということも耳にしていました。
でもその程度なので、多くを語ることは出来ません。

初めて観た石塚さんのスプリントからは「意志の強さ」を感じました。
同時に「迷い」や「不安」も抱えているような、そんな走りに思えました。

文芸や絵画を鑑賞する際、私は作品に自分の想像力を働かせ、自分の経験と重ねることがあります。
共感はそこから生まれ、共感できる作品だけが、私にとって興味深いもの、つまり名作となります。
ランニング・フォームも同じです。
速い遅いにはあまり興味がなくて、走り方そのものに興味があります。
走り方は、その人の生き方に直結するものだと思うからです。
ただ、内面の部分をこれほど強く感じる走りに出会ったのは初めてかもしれません。

長い年月をかけて「走ることは人生を肯定する手段になり得る」と、私は気づくことが出来ました。
自分勝手な想像力を働かせてみれば、石塚さんは自分自身の「走り方」を手に入れかけているのかも知れません。
これからどんなスプリントを見せてくれるのか、楽しみな選手がまた一人増えました。

2018/09/29

三武潤さん|全日本実業団陸上2018

ポスト川元は誰か…私が真っ先に名前が出てくるのは三武選手です。
中央:三武潤選手
日大卒だからと、贔屓目に見ているわけではありません。
とても柔らかいスプリントをする選手で、コーナーの走りが上手い。
一方で力強さに少し欠けるようにも思える。
未完成の部分が多いように見受けられて、だからこそまだまだ速くなるだろうと期待して観ています。

先週の全日本実業団、アップの走りを見るとかなり調子が良さそうでした。
「これは獲れるかもしれない!」と思ったのですが、スタート直後に他の選手の走りを見て「これは楽じゃない…」と思い直すことに。
調子が良さそうなのは三武選手だけではなく、他にも数名いるようでした。
結果は福井県スポーツ協会の村島選手が1分47秒97で1位。
2着に市野選手、3着に新安選手がともに1分48秒台で入って三武選手は1分49秒14で4着。
49秒台なので悪くないのですが、前の3人が素晴らしかった。
間違いなく、日本の中距離会は全体的にレベルが上がっています。
ただ、それでも優勝タイムはギリギリ47秒台。
村島選手は5月に1分47秒01を出しているので46秒にあと一歩というところです。
コンスタントに46秒台を出せるような選手が数名出てくること。
そのレベルのレースを国内で何度も経験出来ること。
それが世界と戦う上でも必要になってくるでしょう。
そして三武選手にもその可能性は十分あると思うのです。

東京で五輪が開催されることもあってか、社会人になっても走り続ける中距離選手が増えてきました。
(裏を返せば、東京五輪がなければ、これだけ多くの選手が競技を続けられていたかは疑問です)
彼らに共通して言えることは「社会人で結果を残さなければならない」こと。
東京五輪の後、社会人になって走り続けようと思う選手が増えるのか減るのか…
アスリートとして中距離選手を採用する企業が増えるのか減るのか…
それは彼らの出す結果にかかっている部分も大きい。
彼らにとって、走り続けられる環境はとても有難いことでしょう。
同時にその有難さは、大きなプレッシャーでもある。
だからこそ、三武選手に限らず、社会人で走り続けているロングスプリンターを応援し続けたいと思います。

2018/09/24

新宮美歩さん|全日本実業団陸上2018

全日本実業団陸上、東邦銀行の新宮さんは400m、800m、4×100mRの3種目に出場。
初日の800mでは序盤から前に出る積極的な走りで3位(2分8秒56)。
400mは57秒31で予選敗退でしたが、走れているなという印象を受けました。
後述しますが、シニア期に「走れている」というのはとてつもなく凄いことです。
そしてこの「走れている」ということが、新宮さんの走りはまだまだ進化するのだろうと予感させてくれます。

シニア期の成長条件とは



1991年生まれの新宮さん。
高校生でベルリン世界選手権のマイルリレー代表となり、学生時代にはアジア選手権400mで7位、マイルリレーではアンカーを走り金メダル。
その翌年、2012年に出した400m53秒66、800m2分5秒47が自己ベスト。
インターハイやインカレでも活躍した輝かしい経歴を持つ選手です。
どの種目でもそうですが、トップアスリートがベストタイムを毎年更新し続けるのははっきり言って困難です。
シニア期の選手は特に難しい。
けれどもシニア期にピークを再び持ってくることは不可能ではない。
年齢的には25歳から30歳。
この時期に可能だろうと私は考えています。

一般的には体力、記憶力、判断力のピークは20代前半から中盤とされているので、25歳以降は衰退するのではないかと考えられがちです。
しかし、20代前半からトップアスリートとして活躍してきた選手が、30前後で再び自己ベストを更新する姿はこれまでにもありました。
トレーニングを工夫することで磨きがかかる部分、年齢を重ねることで成長する部分は間違いなくあります。

その条件は第一に「走れている」こと。
20代前半までに培った体力面を維持し続けていること。
最前線で活躍してきた選手は少なからずどこかに故障を抱えているものなので、維持するだけでも大変なことです。
しかもこれから先、トレーニングの工夫ができる想像力、創造力、行動力を持ち合わせていることが条件になります。
当然のように、動きは20歳前後のころより洗練されていなければなりません。
効率の良い走りを追い求めつつ、自分のどこに可能性があるかを見つけ、その方法を見出し、実践する能力が必要です。

簡単ではないでしょうが、今、女子中距離会で私がその可能性を感じているのは、奥アンツーカの大森さんと、東邦銀行の新宮さんです。
走り方のタイプは全く異なる2人ですが、両名ともこの1,2年で伸びる…そんな気がしています。

2018/09/23

大森郁香さん|全日本実業団陸上2018

奥アンツーカの大森さん、今年の全日本実業団陸上は800m、1500m、そして400mの3種目に出場。
今年は故障で思うように走れない時期が続いていたので、事実上これが復帰レースになるだろうと注目していました。
最初の種目は800m。
先頭の3人が400~500mでスピードを上げます。
大森さんはそこについていけずに2分10秒32で5着。
アップを見る限り動きはかなり良かったので、レース勘が戻っていないように感じました。
スピードの変化には対応できないというより、身体が反応しなかったのではないでしょうか。

この翌日、1500mを走ります。
専門種目じゃないし連戦だし無理しない程度に走ってくれれば、と見ていると…
なかなかいいタイムで走り続けて4分28秒81で10位。

そして最終日は400mに出場。
予選1組を58秒58。
3日間で3戦目。
3種目全部出るとは考えていなかったので、よく走ったなというのが正直な感想です。
これだけ走れる姿を見て安心もしました。
復活の手応えを十分感じさせてくれる大会でした。
それでも、800mを走り終え優勝した山田さんを讃えた後、一人両手で顔を覆う場面がありました。
もう少しいい形で復帰を飾りたかった、というのが本音なのでしょう。
焦らず少しづつ戻して、過去の自分を超えてほしいと思います。

2018/09/15

高石涼香さん|日本インカレ女子800m

少し前のレースですが、今年の日本インカレ女子800mの混戦は見ごたえがありました。
優勝したのは塩見さんで、タイムは2分5秒88。
2位に広田さん、3位に川田さんが入り、4位は池崎さん。
塩見さん、川田さん、広田さん、池崎さんの4人の実力は突出していたので、順当にいけばこの4名が1位~4位であることは誰でも予想出来たことでしょう。
決勝に残るのはあと4名。
この争いが予選から熾烈でした。

予選5組を走った東大の高石さんも例外ではなく、序盤からの激しいポジション争いにペースを乱された感があります。

1周目の位置取りがうまくいかないと、スパートをしかけるタイミングを見失い、走り終えた後にはすべてが空回りしてしまったように感じてしまう。
4年生にとっては最後の日本インカレ。
最後だから全てを出し切りたいと誰もが願うのですが、特に中距離種目はそれが容易には出来ない。
ゴールした時、先頭との差はタイム以上のものがあるように見えてしまう。
800mの難しさと残酷さを垣間見た日本インカレでした。

東大の高石さんは、まだあと何レースか走るようです。
納得のいくスプリントで現役生活を締めくくることが出来るように祈っています。

2018/09/06

精進百撰|水上勉

以前の記事では、ジュレクの「EAT & RUN」を取り上げました。
スコット・ジュレクはウルトラマラソンの第一人者であると同時に、完全菜食主義者(ヴィーガン)でもあります。
ジュレクに影響され、ヴィーガン食を取り入れてみようとすると初めは難しいように感じたものです。
しかし日本には完全なるヴィーガン食が古来より存在していることを思い出しました。
精進料理です。
そして私は、本物の精進料理の味を知っている…。

9歳で京都の相国寺の小僧となり、11歳で等持院に移り、19歳まで小僧をつとめた作家の水上勉さんは、禅寺で教わった精進料理の数々を、1冊の本にしておられます。
それが「精進百撰」です。
晩年の水上さんは長野県北御牧村に住んでおられて、畑を耕し収穫をし、山へ入って土を掘り、調理をし食べて書く…そのような生活を送っておられました。
北御牧のお宅に伺った際、山芋を振舞ってくださって、皮をむいて輪切りにして両面を焼くだけで驚くほど美味しかった。
「同じ山芋でも畑で収穫されたものと野生のものとでは全く味が違う。もちろん、野生でも育った場所、畑でも土によって違う。上質な山芋は、ただ焼くだけで美味い。手をかければかけるほど、山芋本来の味は薄らいでゆく」と教えてくださった水上さん。
書くことも走ることもまた生き方に通じるものであるならば、水上さんの食生活はまさに質実そのものです。
この質実という点において、私には水上さんとジュレクとが重なって見えるのです。

本書の本編のタイトルを水上さんは「蔬食三昧」としておられます。
「蔬食」とは菜食の意ですから、まさにヴィーガンそのものです。
当初私は、精進料理やヴィーガン食に対して質素で健康的なイメージを抱いていたのですが、そうでないものも結構あります。
例えば植物油で調理したフライドポテトも立派なヴィーガン食で、ヴィーガンのファーストフード店もあるくらいです。
水上さんが紹介している精進料理にも「霰豆腐」というものがあって、これは豆腐をサイコロ状に切って胡麻油で揚げるというもの。
どちらも食べ過ぎれば不健康極まりない一品です。
結局のところ、大事なのは「必要な量」を見極めること。
油で揚げた味を愉しみたい時も、どの加減で止めておけるか、食べ方の極意とは、恐らくそこにあるのではないかと思うのです。
精進料理はまさに禅であるのですから、調理も食することも、その極意を悟るための修行なのかも知れません。
食べることも、走ることも質実でありたいものです。

さて、以下は余談なのですが…
霰豆腐は沖縄の島豆腐で作ると崩れが少なくて作りやすいようです。
小さめのフライパンにサイコロ状に切った島豆腐を胡麻油で揚げるように焼いて、軽く塩を振れば完成です。
島豆腐が手に入らなくても、白山麓のかた(堅)豆腐でも同じように調理できるはずです。
私も最近知ったのですが、沖縄の島豆腐と、福井・富山・石川の白山麓のかた豆腐が、日本の豆腐の原型だと考えられているそうです。
木綿豆腐や絹ごしなどは、地域に合わせて製法と味を変えていったものなのでしょう。
亜熱帯の沖縄と冬は雪深い白山…気候の全く異なる両地域で、変わらず昔ながらの豆腐を製造していることが何だか不思議だと感じる今日この頃です。

2018/09/03

EAT & RUN|スコット・ジュレク

ウルトラマラソン、そしてトレイルランニングの第一人者、スコット・ジュレクが自身のランニング観と食生活について書いた本「EAT & RUN」は、私を夢中にさせてくれた1冊です。

私は出版社勤務の後、有機農産物を取り扱う「大地」という企業で働いていたこともあり、「食」には多少の関心を持っていました。
しかし当時の私は既に引退していてジョガーですらありませんでしたから、自然や環境と「食」を結びつけることは出来ても、そこに「走」が結びつくことはありませんでした。
その必要性がない生活を送っていたのです。
その後私は身体を壊し、さらに10年以上全く運動をしない生活を続けます。
ジュレクの「EAT & RUN」に出会ったのは、再び走り始めたころです。
引退から19年が経過していました。

ジュレクは完全菜食主義者(ヴィーガン)として知られていますが、初めからヴィーガンであったわけではありません。
恐らくジュレクにとってヴィーガンは、食べ方、走り方を問い続けることで辿り着いた解答なのでしょう。
「EAT & RUN」を読み進めると、「何をどう食べて走るか」ということをここまで深く考えている人がいることに驚かされます。

ジュレクの自然体を貫く食生活とランニング観に影響を受けた私は、完全なヴィーガンにはなりませんでしたが、極力肉を食べないようにしています。
普段は植物性たんぱく質を中心にし、青魚をたまに食べます。
そして、ひどい筋肉痛になった時などに牛肉やラム肉、乳製品などを食べます。
そうすると普段あまり肉類を食べていないからか、回復が早いように感じています。
「汝の食事を薬とし、汝の薬は食事とせよ」
と言ったのはヒポクラテスだそうですが、そのように食べ、そして走りたいと思うようにもなりました。
もちろん友人との外食や肉類の食材を頂いた時は別で、ただひたすら食事を愉しみます。
走ることも食べることも、楽しくあることが理想であるのは言うまでもありません。
自分に何が必要で必要でないか…食を工夫することすら楽しめる生き方を目指したいものです。
そして「EAT & RUN」にはジュレクが実際に食しているヴィーガン食が紹介され、そのレシピも掲載されていますから、ベジタリアンでなくともランナーには大いに参考になると思います。

また随所にコラムのページがあって、そこにはジュレクのランニングに対する考え方、走り方の基礎が簡潔に書かれています。
例えば走る姿勢については、
前屈みの姿勢で腰は立てる。頭からつま先まで棒が通っていると想像しよう。その棒が地面から心持ち前傾するように保ち、骨盤はまっすぐに。全身がうまく使えると、重力を利用した走りができる。ランニングがコントロールの効いた落下だということを忘れてはいけない。
とあります。
一本の棒を地面に落とせば棒は弾みます。
よく言われる「地面からの反発」というものです。
体を一本の棒のようにすることができれば、落下した際の反発力は棒の先、つまり頭まで響きます。
この状態が、重力を最大限に活用したランニングです。
100㎞をより楽に走るには、なるべく体力を使わず重力の助けを最大限に得たいものです。
そして100mをより速く走るには、重力を緻密にコントロールする技術が必要となってきます。
「ランニングとはコントロールの効いた落下である」…最も的を射たランニングの定義ではないかと思います。

この本に共感できる人は、記録や勝ち負けだけではなく、走ることを生活の一部にすることが出来る人だと私は思います。
ベテランランナーであっても、自分のランニング観を再確認することが出来ることでしょう。
お勧めの一冊です。

2018/08/20

水上勉さんの文章道

私の人生には、師と呼べるひとが幾人かいます。
作家の水上勉さんは、その中でも最も大きな存在の方でした。
陸上競技を辞めた後、21歳の頃からお話させていただくようになりました。
いつだったか、私の書いた論文に軽く目を通し「あなたの書く文章は詩になるかも知れないね」と言ってくださったことが、私の人生を変えてしまったのかも知れません。
あれから20年以上の月日が流れました。

今、私の書棚には、水上勉さんの著作「虚竹の笛」があります。
沖縄に移住しようとしていた頃に戴いた本で、水上さんの署名の入った、私にはもったいない一冊です。
本書は第二回親鸞賞を受賞した作品ですが、この本について語った水上さんの言葉が今も忘れられません。
「文章道を行くのであれば、私は先輩たちの名作から学び、文章道にもとらないようにしたいものだと思います。『虚竹の笛』は、そういうことを書いておきたい本です。借り物の言葉を言ってすましているのは愚かです。この本には借りた言葉はないでしょう」
水上さんが他人の文章について語ることは殆どありません。
過去の偉大な作家の作品の素晴らしさを語ることはあっても、水上さんの批判というものを私は聞いたことがないのです。
この頃、晩年の水上さんは、一語一語ゆっくりと、息をとぎれさせながら語っていました。
丁寧に言葉を選びつつ語るので、話す言葉に隙が見つからないほどです。
そこへ「借り物の言葉を言ってすましているのは愚かです」と言われたものだから、こちらは緊張します。
自分自身を振り返ると、好きな作家や思想家の言葉と文体を、知らず知らずの内に拝借してしまうことが少なくありません。
水上さんの言葉は、現在の小説家の文体にもあてはまります。
例えば、著者や作品名をまったく見えない状態にして、過去の作家の本を読んでみると、井伏鱒二、井上靖、太宰治、志賀直哉、永井荷風など挙げればきりがありませんが、文体そのものが各々完全に異なります。
しかし現在の小説家は、実名を挙げることは控えますが、他人の小説を「これは私が書きました」といってみても全く違和感のないほど似通ったものが溢れています。

そして水上さんが語ることは、走ることにも通じるものがあります。
私の陸上の師は、誰かの後ろについて走ることを嫌いました。
「自分の速度で走っていない」と言うのです。
1500mで、私が先頭を走る選手の真後ろについてラスト150mで追い抜いてゴールした直後には、「よく勝ったと思う。でもお前は他人の速度で走って、それで満足なのか?」と言われました。
「自分自身を把握すること、そして自分の速度を貫くことが大切だ」と言われ続けて私は走りました。
水上さんに「借り物の言葉を言ってすましているのは愚かです」と言われ、極度に緊張した理由には、走っていたころの記憶が蘇ってきたこともありました。

さて「虚竹の笛」には、日本人留学僧と中国の女性との間に生まれ、日本に尺八を伝えたとされる禅僧を軸に、小説とエッセーを交えて、日本と中国との文化交流が描かれています。
「尺八の音を聴くと、禅宗の無の思想が伝わるように思えてならないのです。あの笛は何故なるのでしょうか。そう思います」
「人間には二通りある。無為の真人の修行の道と、それと無縁の道が、あるように思えます。笛を吹くことの出来る人間は前者に該当します。谷間の竹が、風の音を聴いて育ち、笛になるのです」
笛を吹くことの出来る人は、笛に共鳴するものを持っているということなのでしょう。
勿論それが禅宗であるとは限りませんが、尺八の響きは計り知れないものがあると水上さんは語っていました。

禅とランニングとを関連付ける発想は海外でも散見されていますが、走ることも自然との共鳴であるように思います。
「走」という動作を通じて、重力や風、気温など、自分自身を取り巻く自然環境と共鳴することが出来る人、その人こそまさしく走者であると言えるのではないでしょうか。
そして水上さんの語る「無為の真人の修行の道」は、独り長い道程を、旅をするかのように走っていると、おぼろげながら見えてくるように思えるのです。

9月8日は水上勉さんの命日。
水上さんとの会話を思い出しながら走る時節がやってきました。

2018/07/01

安田志織さん|2018西日本インカレ

沖縄で開催された西日本インカレを観戦してきました。
何よりも楽しみだったの女子100mH、環太平洋大学2年生の安田志織さん。
アップ中の走りを見ると調子は良さそうで、台風接近中の強風(追風)でしたからタイムも期待出来そうでした。
14秒04(+3.6)で全体7位。
追風参考ですがタイムもまずまず。
いい感触をつかめたようです。
ゴール後派手に転倒しましたが大丈夫そうなので安心しました。
いつもヒヤヒヤさせられるのはどうやら気のせいではないようです。

高校の後輩でもある安田さんは、私にとって無条件で応援できる数少ない選手の一人です。
レース後、環太平洋大学で素敵な仲間と競技生活を送っていることを楽しそうに話してくれました。
充実したまま、全カレ、日本選手権を目標に走り続けられるよう祈っています。

2018/06/26

日本選手権女子1500m|岩川侑樹さん

今治造船の岩川侑樹さんが8位入賞。
自己ベストに近い4分20秒60で走っています。
岩川さんの自己ベスト4分19秒42は今大会の資格記録ですので、まさに社会人になってから伸びた中距離選手だと言えます。

これまで、日本選手権の1500mにエントリーしてくるのは、男女とも駅伝を中心に活躍している選手がほとんどでした。
それがこの数年で変わってきているように感じています。
残念ながら今大会は予選落ちでしたが、田中希実さん、後藤夢さんなど、高校卒業後に駅伝をメインとしない若い選手が出てきたこと。
そして卜部さん、須永さんのような「800mも走る社会人」の走りも目立つようになってきました。
岩川さんもその一人です。
腰高で膝下が前にスッと出るしなやかな足運びをしつつピッチを刻む…まさに1500mを得意とする走り方です。

今、日本の中距離界、特に1500mに必要なのは、スプリントとスタミナを分けて考えるのではなく、一つにしてしまうことだと思います。
それはよく言われているスピード持久力のことではありません。
スピード持久力(最大酸素摂取量)は確かに重要な要素ですが、それだけではなく、「スプリント持久力」という概念を持つこと。
そしてそれは社会人になってからも充分伸ばすことが可能だと、岩川さんの走りが体現してくれています。
今を走る選手たちの姿の中に、1500mの新しい光景が隠れている。
そう思えてなりません。

2018/06/24

日本選手権6連覇、川元奨

川元選手の6連覇の走り…圧巻でした。
2位以下を寄せ付けないスパートには流石の一言しか思い浮かびません。
今シーズンは故障もあって本調子ではないと聞いていましたが、大きなレースでの勝負強さは相変わらずです。

800mで日本選手権6連覇をした人って過去にいるのでしょうか?
と思ってちょっと見たら、日体大の石井隆士さんの5連覇が過去最高のようなので、どうやら超えたようです。
1分45秒台の日本記録保持者で日本選手権6連覇。
現在、国内では川元選手の前を走る人はいないでしょう。
そして今、川元選手には東京五輪が見えていることでしょう。
世界で勝負をするには、コンスタントに45秒台を出せるようにならなければならない。
恐らくそれが最低条件です。
これまでもそうでしたが、ここから先も、誰も到達したことのない世界です。
川元選手と松井コーチの2人なら、切り拓いてくれると信じています。

當間汐織さん8位入賞|日本選手権女子やり投げ

4年前、2014年の6月、台北市で開催されていたアジアジュニア選手権。
女子やり投げの金メダリストを写した1枚の写真に魅せられたことを今でもよく覚えています。
当時、久米島高校を卒業し九州共立大学へ進学したばかりの當間汐織さんです。
55m75の投てきで優勝。
この年には日本選手権にも出場し4位入賞を果たしました。

あれから4年。
九州共立大を卒業し、福井県スポーツ協会の所属となったばかりの當間さんが日本選手権に帰ってきました。
51m61で8位入賞。
8位入賞はしたものの、満足できる記録ではなかったかも知れません。
それでも、8位入賞の報せは、ここから新しい競技人生が始まるのだろうという期待を持たせてくれるには充分です。
そしてこれは4年前にも感じたことなのですが、地元沖縄の人が當間汐織の名をもっと知ることになる日が必ず来る…
今も変わらず、その予感を抱き続けています。

【少し余談】
投てき種目は、なかなか練習を行える環境がないというのが現状です。
昔からどの競技場に行っても、走っている人はいても投げている人はいない…
フィールドで走っている人もいるから、投てきすることすらできない。
本当は、たくさんの市民ランナーがトラックで走っているように、フィールドで投てきを行っている人がいる様子が理想なのだろうと、いつも思っていました。
特にそれほど重くないやり投げは、高齢になってからも可能な競技だろうと思います。
競技に参加すれば、無理のないペースで筋力トレーニングを行う励みにもなるし、やり投げなら練習で走ることも出来る。
市民ランナーのように市民スロワーがいてもいいのにな、と思う今日この頃です。

大森郁香さん|日本選手権女子800m

今年から奥アンツーカで走っている大森さん。
故障に悩まされていましたが、日本選手権の舞台に戻ってきました。
予選3組を2分16秒01で5着。
予選敗退ではありますが、痛みもなく走り切れたとのことですから、夏場で走り込んで今シーズンの後半戦でどこまで上げてこれるか楽しみです。

大森さんがこれほど長く戦線離脱するのは初めてのこと。
所属も変わり、新しい環境を手に入れたこの時期に、少し立ち止まる時間が出来たことはかえって良かったようにも思えます。
必ず糧になることでしょう。

2018/06/09

新谷仁美さんの復帰レース

本日、6月9日に行われた日体大長距離競技会女子3000mで新谷仁美さんが現役復帰。
およそ5年ぶりのレースですが、9分20秒の好タイム。
それでも本人は「かなり中途半端な記録」とのコメント。
自分に厳しい姿勢と、復帰レースでいきなり先頭を走るあたりが以前と同じスタイルで、「新谷が帰ってきた」と強く実感させてくれました。

2013年世界陸上モスクワ大会女子10000mで30分56秒70で5位入賞をした走りを記憶している人も多いでしょうから、現役復帰には大きな期待が寄せられていると思います。
新谷さんがどんなタイムで走るかは楽しみではありますが、それよりも私が楽しみにしているのは、これからの新谷さんの走り方です。
新谷さんが所属するのは800mで活躍した横田真人さんがヘッドコーチを務めるNIKE TOKYO TCです。
これまでの実業団所属とは明らかに競技との関わり方が変わってくるはずです。
実績もあり、しかも自分のスタイルを持っている新谷さんが、どういう走り方(生き方)を見せてくれるのかとても興味深いものがあります。
もしかしたら、これまでにない新しいスタイルを見せてくれるのではないか?
そしてそれは今後の選手の走り方の道標になるのではないか…
新谷さんだけに、そんな期待を持たせてくれます。

ところで、新谷さんはかなりのピッチ走法です。
脚力は、世界トップレベルの中ではそれほどではないと思います。
それでもこれだけのスピードを維持できる。
つま先が前に出で綺麗なミッドフットで接地する…シンプルな事ですが理想的なピッチ走法だと思います。
理想的なピッチ走法だと思った選手は過去3人います。
高橋尚子さん、新谷仁美さん、西澤果穂さんです。
高橋さんはご自分で「腕振りが良くない」と言っていましたが、見方を変えればリズムに徹した腕振りで何より足運びが素晴らしかった。
新谷さんの腕振りは高橋さんと違って、位置が低く振りが大きい。
ラストのスプリントにも対応出来る走り方です。
少し前傾姿勢でピッチ走法で走っている人なら真似してみても良いのではないでしょうか。

2018/06/02

月経との関わり方

女性アスリート、女性アスリートのコーチなら、誰でも一度は悩むことになるのが「月経」についてだろうと思います。
特に男性コーチの場合は、自身で体験出来ないことなので困惑することも多々あるでしょう。
  • 月経不順はどう身体に良くないのか?
  • 生理期間中のトレーニングはどうするか?
  • 試合とぶつかってしまったらどうしよう?
など、様々な壁にぶち当たります。
私もそうでした。

1、月経は定期的にあることが理想

まず、健康への影響から振り返ってみます。
私が女子選手の練習を見始めたのは90年代のことです。
日本ではまだ「無月経による健康への影響」が周知されていませんでした。
「激しい運動をしていれば無月経になるのは当然」と考えている指導者が数多くいたのです。
無月経が続くことは更年期障害と似た状態になるということですから、精神面への影響もありますし、骨粗しょう症にもなりやすい。
アスリートであれば疲労骨折や、ストレスからくる摂食障害などの原因になりかねません。
こうしたことを知らないまま競技を続ける選手が多かった時代でした。
私自身も「ずっと生理が来ないのは身体に良くない」程度の認識でした。
アスリートなら多少の月経不順は仕方ないだろう…とも思っていました。
今にして思えば、選手の小さなケガや、メンタル面での問題は月経不順が原因だったのかもしれません。
どれほどのトレーニングをしている選手であっても月経は定期的にあるべきだ。
それが今の私の考えです。

問題なのは、無月経が身体に様々な影響を及ぼすことを知りながら、それでも「アスリートなのだから仕方ない」と考えているコーチが今もなおいることです。
(女子選手の月経周期について全く無頓着なコーチも見かけますが、これはもう論外です)
無月経の原因として広く知られているのは体脂肪率の低下によるものです。
確かに、本格的なトレーニングを継続をすれば体脂肪は減ります。
そして無月経になったとしても、トレーニングを休止し脂肪が増えてくると自然と月経は戻ってきます。
ではトレーニングをしながら正常な月経周期を維持することは出来ないのでしょうか?
この疑問への解答をマラソン世界記録保持者のポーラ・ラドクリフが著書「HOW TO RUN」で述べています。
生理が始まるには体脂肪が15~17%は必要だと主張する栄養士もいますが、私は体脂肪12~13%程度できちんと生理があります。その理由を解く新しい考えかたは、重要なのは体脂肪の絶対量ではなく、カロリーバランスだとするものです。
激しい運動をしていながら必要最低限のカロリーしか摂取していないと、破壊された骨や筋肉の修復が間に合わなくなります。
その状態が長く続くとホルモンバランスにも影響するというのです。
そしてラドクリフ自身、人生で生理が止まったのは2度だけ。
一人暮らしを始めた学生の頃と北京五輪の後の2度で、どちらも過度なトレーニングではなく、ストレスが原因だったと振り返っています。
私が関わってきた選手の中にも、元々細身でしたが生理は定期的に来ている人がいました。
重要なことは、ラドクリフが言うように、アスリートとして必要な栄養素とカロリーを摂取できているかということにあるようです。
特に長距離選手は「痩せている方が有利」と考えがちで、食事の量そのものを減らす傾向がありますが、体脂肪もアスリートに必要な栄養素です。
たくさん走るならたくさん食べなければならない…それが鉄則ではないでしょうか。
人によりベストな数値は変わるでしょうが、通常は最低12%を目安に維持しておくことが望ましいと言えそうです。

では生理の間、またその前後のトレーニングや試合はどうしたら良いのでしょう?
以下、考察してみます。

2、生理中のトレーニングは?

生理になっている間、女性の身体は出産時と同じような状態になります。
骨盤が広くなり関節が柔らかくなるのです。
これがパフォーマンスに影響する人がいます。
特に陸上や水泳などで0.01秒を競うレベルにいる人は、少しの違いでも大きく感じるはずです。
「動きがおかしい」とマイナスに感じる人もいれば、「いつもより動きやすい」と感じることもあるようです。
先ほど紹介したラドクリフは恐らく後者のタイプです。
彼女がシカゴマラソンで世界記録を出したのは生理が始まった日だったそうです。

生理中に柔らかくなった関節は、生理が終われば元に戻ります。
これは私の推測にすぎないのですが、緩くなった関節が元に戻ることが、生理後のパフォーマンスに影響を及ぼすケースがあるのではないかと思うのです。
生理前と生理中の栄養管理や睡眠が充分であっても、生理後にだるさが残る人がいます。
これだけが原因とは思いませんが、だるさの理由のひとつなのかも知れない。
だとすれば、生理中と生理後のトレーニングは「動きを感知しにくいもの」が理想なのかもしれないと考えるようになりました。
競技の動きをトレーニングに入れてしまうと、選手は普段との違いに敏感になります。
ウェイトトレーニングや体幹トレーニング、水泳選手ならランニングなど、競技の動きとかけ離れた動作をメインにトレーニングを行うことが望ましいのではないでしょうか。

生理痛がひどい場合はトレーニングを休むのが理想です。
大会であっても、理想は棄権することです。
運が悪かったと諦められるくらいが運動としては健康的で良いと思うのですが、目標とする場所があって、日々トレーニングを頑張っている人ならそうもいきません。
目標としてきた大舞台で「棄権」を選択することは難しいでしょう。

3、試合と重なったらどうするか?

生理中と試合が重なってしまったら?
生理とその前後で体調が極端に悪くなる人にとってはどうしようもない事態かも知れません。
日常的に出来る対策として、腹部のむくみなど月経前症候群がある人は、水分補給をこまめに行い、塩分や砂糖、香辛料の多い食事を避けることが挙げられます。
生理中は、体内に水分を蓄えようとすることで身体がむくみます。
ここで水分摂取を控えるのではなく、摂取量を増やすことで代謝を上げるようにします。
そして生理痛に悩まされている人はビタミンB6の摂取量を増やすと良いでしょう。

とはいえ、これくらいのことではどうにもならないくらいひどいケースが実際は多いと思います。
先に述べたような関節が柔らかくなることで動きがだるいと感じる人の場合もそうですが、「生理になったら終わり」としか思えない人はどうするべきなのでしょうか?

ひとつの対策として、私なら低用量ピルをお勧めします。
海外では15歳くらいから使用している選手がたくさんいます。
先進国の中で、あまり広まっていないのは日本くらいかもしれません。
低用量ピルを使うには、婦人科を受診し処方してもらわなければなりません。
生理の量を減らしたり、時期をずらすことも可能になりますが、服用以前に定期的に生理が来ていることが前提となります。
「ピル」と聞くとマイナスのイメージを抱く人も多いでしょうが、低用量ピルを使うにも定期的に月経がなければならない。
低用量ピルを使用するリスクと、無月経のリスクを比べたら、私は迷わず低用量ピルをお勧めします。
もちろん、低用量ピルには副作用もあります。
むくんだり体重が増えることもありますので、大きな大会の直前に初めて使うのは避けるべきです。
目標とする大会を仮想して、予行練習をすることをお勧めします。

また、低用量ピルをある一定期間日常的に使用することで、ほとんど生理を気にすることなくトレーニングを継続することが出来るケースもあります。
さらに使用を停止した後も生理の量や痛みが少なくなった例もあって、これは実際に使用していた市川華菜さんの記事「女子アスリートに知っておいてほしいこと 第2回」に詳しく書かれていますので参考にされると良いかと思います。

4、まとめ
  • 生理は定期的に来ることが大前提
  • 体脂肪率を気にするより、運動量に見合った栄養素、カロリー摂取を心がける
  • 生理中、動きに違和感があるなら競技とは異なる動作のトレーニングを中心に行う
  • 生理痛がひどい時は休むことが理想
  • それでも試合に出たいなら低用量ピルの使用を考える
最後に、本記事で紹介したラドクリフの「HOW TO RUN」は、すべてのランナーにお勧め出来る1冊です。
走り方はもちろん、シューズの選び方、マラソン初級者から上級者までの具体的なメニュー、筋力トレーニングやストレッチの方法、食事と水分補給、さらには乳酸の使い方など、ほとんどすべてのことが詳しく、しかも簡潔に書かれています。
月経だけでなく、出産後の走り方まで教えてくれているので、特に女性ランナーにお勧めします。

2018/05/28

高石涼香さん、最後の関東インカレ

関東インカレの女子800mに出場した東大の高石さん。
大学4年生、最後の関東インカレで決勝まで勝ち進み、7位入賞を果たしました。
決勝でのタイムは2分13秒52。
この前日に予選と準決勝を走っていますから連戦の疲れが少し見受けられました。
決勝では、オープンコースになってからペースアップをした際の疲労が中盤から後半に出てしまったようです。
こればかりはどうしようもありませんし、攻める姿勢を貫いた高石さんの選択が素晴らしかった。
先頭につく形で400mを62~63秒で通過。
最善だったと言えるでしょう。

前日の準決勝を2分10秒92の自己ベストで走り、その翌日にさらに大きなレースに挑む。
恐らく未知の世界に足を踏み入れたような感覚だったのではないでしょうか。
関東インカレは、出るだけでも大変な大会です。
ましてや決勝に残ることは容易なことではありません。
関東インカレの参加標準記録(2分16秒50)は、ほとんどの県では、高校総体県大会の決勝レベルのタイム。
高校の頃から陸上をやっていて、各地域で活躍していた選手が目指す舞台、それが関東インカレです。
東大の高石さんは、何度も紹介していますが、陸上競技を始めたのは大学からです。
2016年10月、日体大記録会の動画です。
この時の走りと、今回の関東インカレの走りを比べると、およそ1年半の間に高石さんが急速に進化してきたことが良く分かります。
大学の授業、課題、テスト…東京大学ですから大変だろうと思います。
そうした中、自分の走りと向き合い試行錯誤を繰り返し、今の速度とフォームを手に入れたのでしょう。

走り方は、誰でもレベルアップすることが出来るものです。
そしてタイムは、それなりについてくるものです。
高校に入ってから陸上を始めた人、高校2年で少し諦めかけている人、そして指導者の人たちにとって、高石さんの軌跡は大きな勇気となるのではないでしょうか。

2018/05/12

高石涼香さん|水戸招待陸上女子800m

ゴールデンゲームズを観戦するため延岡にいた時、気になっていたのが同日開催されていた水戸招待でした。
女子800m1組目に東大の高石さんが出場していたので、陸連のライブ配信で観戦しました。

このレース、スタートから高石さんはリラックスしつつしかも良いペースで走り出します。
1周目のホームストレートでは先頭に出る積極性を見せてくれました。
自分のペースと設定を貫く姿勢、そして700までの走りが素晴らしかった。
昨年と比べても明らかに体幹の強さが違うことが分かります。
走り方がまるで別人。
それくらいレベルアップしています。
そして今回のラスト100~150の走りを見る限り、展開と調子次第ではここでもう少し粘ることも出来るだろうと見受けられました。
今回も調子は良さそうでしたから、展開と体調と言っても、もう本当に微々たる違いでしかないでしょう。

何にせよこのレースを2分11秒13の自己新で走り切った高石さん。
2分10秒前後で走るのは時間の問題だろうと思います。
関東インカレまで1分1秒を大事に過ごし万全の状態で臨めることを祈っています。

今回も高石さんご本人がレースの振り返りを記事にしています。
2018/5/5 水戸招待陸上 女子800m高石
レース動画を見てから読むと800mを走っている方にはとても参考になるかと思います。

2018/05/08

岩川侑樹さん(今治造船)|GGN女子1500m

女子1500m A組、今治造船の岩川さんが走りました。
4分21秒88でこの組5着。
走りを見る限りでは、調子は良さそうでした。
今年度から監督が変り新体制になった今治造船。
駅伝にも出てくるかもしれません。
やはり注目しておきたいチームです。

ところでこの組、名城大学に進学した和田有菜さん、髙松智美ムセンビさんのワンツーフィニッシュでした。
両名とも速い選手なのですが、特に髙松さん(右端)はこの背格好。
この小さな身体で4分16秒台で走ってしまうのだからビックリです。

以下、このレースでの岩川さんの画像です。

2018/05/07

女子5000m|第29回ゴールデンゲームズ in のべおか

女子5000mA組、今年第一生命に入社した出水田さんが出場。
タイムは15分47秒15。
自己ベストには少し遠いタイムですが走れているという印象がありました。

驚いたのは長崎商業の廣中瑠梨佳さん。
強い選手なのはよく知っていたので、展開次第では日本人1位で来るかもしれないと予想はしていましが、15分33秒41の好走で結果的に日本人4位。
これほどのメンバーが揃う中、記録、順位ともに素晴らしかった。

この組にはデンソーの森林さん、倉岡さん、矢田さんが走っていて、それぞれ好調を維持しているようでした。
森林未来 デンソー
今年の駅伝シーズン、デンソーが強そうです。

そしてC組を走っていた大阪学院大学の水口瞳さん。
水口瞳 大阪学院大学
スタート後、前に出てレースを組立てていました。
学生が前に出て、実業団選手が後から追い抜くのはどうなんだろうか…と思いつつ、自分から前に出る姿勢は偉いなあと感心しきりでした。
前に出ることが偉いと言うより、自分のペースを貫こうとする姿勢。
速い遅いや結果や順位ではなくて、市民ランナーからトップ選手まで、こういう走り方をする人が好きです。